コラム

no.023
「32×32=?」算数の問題から多様性のあり方を考える

2016年01月21日 | 取締役 菅桂次郎

日本でもここ数年ですっかり定着した「多様性」「ダイバーシティ」という言葉。狭義の意味で「女性活用」として利用されることも多い言葉だが、性別・国籍・年齢などの多様化で、本当に組織の力は高まるのだろうか。

早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄さんが執筆された「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学(日経BP社)」の中にも、『性別、国籍、年齢など、その人の“目に見える属性”』についての多様性は、組織パフォーマンスには影響を及ぼさないという分析結果が記述されており、むしろ、マイナスの効果をもたらすこともあり得るという興味深い研究成果もあるらしい。

そこで今回のコラムでは、巷に溢れ出した「多様性・ダイバーシティ」について改めて考えてみたい。

実はつい先日、小学5年になる娘の勉強を教えているときに、この多様性という言葉を考えさせられる出来事があったので紹介したい。

皆さんは、「32×32」という掛け算を、どのようなプロセスで解答するだろうか。
娘、妻、私の3名で、ヨーイドンで取り組んだ計算だったのだが、1024という解答を導き出した順序は、娘、私、妻の順であった(くやしい・・・)。

答えを確認した後、即答に近かった娘にその理由を聞いてみると、『知っていた』というではないか。次に妻に確認してみると、自分とは違う方法で解答を導き出していたのである。たった3人の家族、三者三様まったく異なるプロセスでこの問題の解答を導き出したのであるから驚きだ。“そろばん”や“公文”の経験者なら、頭でイメージして即答できるだろうし、他にもいくつかのプロセスが考えられるので、まずはそれを簡単にご紹介したい。

【1】一番遅かった妻(文系出身)の解答プロセス
所謂、もっともオーソドックスな筆算である。
計算式

算数が苦手な妻でも、紙と鉛筆さえあれば10秒程度で答えを導き出せるだろう。

【2】最も早かった娘(小学5年)の解答プロセス
1024を即答。32×32=1024ということを“知っていた”ので、1秒で解答。「算数の思考力」の差ではなく、前提にある「知識」の差だ。

【3】2番目に早かった私(理系出身)の解答プロセス
遠い昔だが、高校時代の数学で鍛えられたこともあり、自然に(a+b)2乗の展開公式が頭に浮かんだ。32×32=(30+2)2乗とし、900+120+4=1024と、頭の中で数式をイメージし、だいたい10秒弱でギリギリ2着に滑り込む。なんとか理系出身らしく、父・夫としての威厳をキープ・・・。

【4】その他の解答プロセス(その1)
32という数字を2の5乗として捉えると、32×32=2の10乗。=1024となる。視界を変えると、「知識」として変換され、即答に近いスピードで解答に辿り着く。

【5】その他の解答プロセス(その2)
インドでは、これを10本の線を引くことで1024を導くという手法もあるらしい。
※今回はその詳細は割愛。

こんな些細な出来事があった訳だが、改めて「多様性」とは何かという問題を考えるきっかけになったのだ。

本来、多様性を推進する目的とは、変化の激しい昨今のビジネス環境において、多様なものの見方、価値観、能力を効果的に組み合わせることで、組織の活性化や継続的な企業価値の向上を図るというものであるはずだ。単純な“目に見える属性の多様化”が目的ではないはずである。

冒頭に紹介した書籍に中にも、「実際の業務に必要な能力・経験」の多様性が重要であり、つまり、組織メンバーの各々が持つ、教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験の多様化が、組織パフォーマンスにプラスの効果をもたらすとある。

「同じ問題に直面しても、その捉え方や解釈、解を導き出すプロセスは違う」ということが多様性の効果であり、むしろ“その違い”から何を学び合い、組織としてどのような価値を見出すのかが問われているのだと思う。

今の我が組織には、問題の捉え方や解釈、解を導き出すプロセスに、“意味のある違い(多様性)”を作り出すことができているのだろうか。

そして何より、組織で起こる様々な出来事は数式のように単純ではない。現実世界には環境の変化があり、人の感情があり、簡単に予測できないことばかりだ。

そのため、例え属性が近い集団であっても、導き出される答えにもバラツキがあり、真逆になることすらある訳だが、これを「多様性の高い組織」と言うにはさすがに無理があるようにも感じる。

我々は改めて、「多様性のあり方」を考えるフェーズにきているのだと思う。