コラム

no.052
デジタル社会に備えた人材開発のあり方を問う
~社員一人ひとりの強みと個性を解放していますか?~

2018年5月29日 | 取締役 吉田卓

先日、私が参加した世界最大の人材開発イベントであるATD主催International Conference & Expo(inサンディエゴ)において、発信されていた大きな文脈とコアメッセージは以下の通りであった。

「IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットをはじめとしたテクノロジーの破壊的な進化により、多くの仕事が自動化され、人間の仕事がロボットに奪われていく。私たちはそのような時代の到来を恐れるのではなく、自分たちの“仕事を再定義すること”が問われているのだ。ロボットと人間が共存するハイブリッドな職場においては、私たち自身がデジタル化の本質について学び、タレント開発のあり方をさらに進化させるとともに、『一人ひとりの“リッチ・ヒューマニティ(豊かな人間性)”をいかに解放させ、人間の本来的な価値や素晴らしさ、優位性をいかに最大化していくのか?』という命題に対峙しなければならない」

このような潮流をなぞるかのように、昨今、お客様からのご依頼の中にも「デジタル時代に備えた人材開発施策とは?」というテーマが喫緊の課題意識として問われることが非常に増えてきている・・・さて、皆さんはデジタル時代の人材開発に向けて、何か取り組んでいることはあるだろうか?

75周年を迎えたATDにおいて、今年のメインイベントでもあったバラク・オバマ前アメリカ大統領の基調講演の中では、「自分なりのバリューを見つけて生きていくことの大切さ」について繰り返しメッセージが送られていた。

オバマ氏は、世界規模であらゆる人たちとつながり、想像もつかないテクノロジーの進化により効率的で生産性の高い時代を迎えるからこそ、「正直であること(Honest)」、「他者に親切であること(Kindness)」、「他者を尊敬すること(Respect)」といった極めてシンプルなバリューが、私たちの考え方や行動、そして生き様そのものに大きな影響を与え、このバリューこそが我々を良質な未来へ導くものであることを自分自身の体験談を交えながら語り、人としてのバリューに立ち返ることの重要性と意義を強調していた。

くわえて、「変革は一朝一夕で進むものではなく、正しい答えがない中で、現実を直視し、あらゆる人々の言葉に耳を傾け、バリューや信念に基づいて一歩ずつ変化を生み出していくこと」の大切さを自身の半生を振り返りながら述べていた。そして、そのためにも、私たち人材開発に携わる者に必要なことは、「人の最高(best-self)」を解放していくことにあると述べ、聴衆に大きな感動を与えていたことが印象的であった。

また、「さぁ、才能に目覚めよう」の著者であり、「Strength(強み)」研究の第一人者として著名なマーカス・バッキンガム氏の基調講演も同様、「人間のバリュー」に関する話が展開されている。

その中でも、マーカス・バッキンガム氏が強調していたことは一貫して、「人間一人ひとりが持つ強みと個性に着目し、それらを育んでいくことの大切さ」である。ただし、決して「弱点を無視する」ということではない。「私たちは弱点を過剰に意識しすぎるあまり、大きなストレスを背負い、適切な学習に向けた動機づけがなされない」と警鐘を鳴らしているのである。

しかも、強みはすでに自分の中にあり、当然のように存在しているため、気づきにくい。強みが見えたら見えたことを本人にフィードバックすること、強みを強みとして認識させること、それらによってポテンシャルや才能が伸びていくのである・・・というメッセージを多くの事例やデータに基づいて、解説がなされていた。

翻って、職場内で人材開発を担う一人の管理者、コンサルタントとして自身を振り返ると、「強み」を伸ばすことが人材育成において最も重要であるとの認識は十分にあるものの、部下にも受講者にも、そして自分自身にも「弱みの改善」にプライオリティを置いてしまいがちである。また、私たちが現場での部下指導において、ついついやりがちなこととして、「失敗した時」は根掘り葉掘り原因を追究して問い詰めるのに対して、「成功した時」は結果報告だけで満足し、原因やプロセスについて確認すらもしない・・・。

「弱みを過剰に意識させ、強みは放置する」。これでは「人間としてのバリュー」を感じることなど決してできない。

ATD全体として発信されていた「リッチ・ヒューマニティをいかに育むか」という非常に壮大な命題に対して、私たちが日々できることの第一歩として、メンバーの「成功プロセスと原因を聴く」ことが挙げられるのかもしれない。たとえ、小さな成功体験や成果であっても、「どんな意図や判断でやったのか?」「どんな工夫をしたのか?」「どのような手順で問題を解決したのか?」・・・など、成功の原因(決め手となった工夫・具体的行動・プロセス)を聴いて、そのメンバー本人の「強み」を言語化していく支援が、自分の中にある強みのパターンを発見させる大きなチャンスにつながる。

一度、ぜひやってみてほしい。メンバーは嬉しそうに自分の成果を語り、語りながら自分の強みを発見し、次なるステージでその強みを再現してくれるに違いない。

そして、デジタル社会に備えた人材開発のあり方とは、こんな“新しくて古い”愚直なアプローチを通してしか実現しえないのかもしれないと、原点に立ち返るきっかけをATDから提供してもらえたように感じている。

あなたの中にある「強み」、そして「人間としてのバリュー」は何ですか?