コラム

no.055
なぜ、アクションプランは実行されないのか?
~大きな目標と小さな一歩のジレンマ~

2018年8月28日 | 取締役 吉田卓

当時マネジャーだった私は、「もっとパフォーマンスを上げたい」と申し出てくる部下に対して、考え方や視点を変えるために「いかに“ダイナミックで、本質的な問いかけ”ができるか」をいつも心がけていた。また、目標管理における目標設定に際しても、「いかに“チャレンジングで、課題を包括的に解決できる目標”か」を重要視していた。

私の問いかけや目標設定の指導により、部下の業績や行動に変化が見えてくることを大いに期待したものである。しかし、このような働きかけは瞬間的な士気の高揚で終わってしまうこと、具体的行動が見られず誰も変化を感じないこと・・・そのような懸念と限界を抱き始めていた。

そんな時、私のマネジメントに大きな変化をもたらしてくれたのは「ある部下の一言」であった。

「提示いただいたような大きな目標だと、私はやる気が出ず、継続することができません。頭の中が混沌としているので、もっと分かりやすくブレイクダウンしてくれませんか?」

彼は、何とか自分を変えたい、もっと成果を出したいと思いつつも、何から手をつければ良いのか分からず完全に行き詰っている状態であった。私自身、大きな変革目標を掲げることに意義を感じていたこともあり、受け入れがたい要望ではあったものの、まずは「小さく始められそうなこと」を一緒に探すことにした。

「どんなことなら“負担を感じずに”やれそう?」
「最も大切だと思うことを“1つ”に絞るとしたら何?」
「明日から“確実に踏み出せる小さな一歩”があるとしたら、何が考えられる?」

何度か対話を重ねた結果、最終的に彼から出てきた答えは、「今日一日で起きたことを毎日頭の中で思い返す」という極めてシンプルな行動であった。こんなことで、本当に彼の業績や行動にインパクトを与えられるのか?と、正直なところ私は不安に思ったのだが、彼は不思議と気分が晴れた様子で“小さな一歩”を踏み出したのである。その後、私の不安をよそに、彼は混沌としていた状態から抜け出し、態度や行動にも日々変化が起きていった。

「一日を振り返る」という“確実で小さな一歩”を踏み出し継続することから、“自己変革”のきっかけを作ったのである。今では、会社を背負って立つ高業績マネジャーとして、お客様からもメンバーからも信頼されている彼だが、当時のことを思い出して、先日このように語っていた。

「大きな変革目標を掲げることで、何とか自分が変わると思い込んでいました。吉田さんと“小さな一歩”を話し合い、確実にできることを言語化していなかったら何も始めてなかったでしょうね」

翻って、皆さんの立場や直面する状況に置き換えて考えてみると、研修実施後に受講者へ課す「アクションプラン」や「自己変革計画書」に書かれている内容はどうであろうか?研修受講後は、誰もが色々な気づきや刺激を受け、思わず“大胆な自己変革”を宣言してしまいがちである。ただ、それを愚直に実行している人を見たことがあるだろうか。

大きな変革を宣言し、アクションプランに落としていくこと自体は重要であるが、そこに向けた“小さな一歩”が特定され、言語化されない限り、その“自己変革宣言”は絵に描いた餅で終わってしまう。 逆に、壮大で困難だと思っていた課題に対して、“小さな一歩”を踏み出してみれば、次の二歩目、三歩目が次第に見えてくることもあるだろう。ぜひ、アクションプランの作成後に問いかけてほしい。「・・・で、明日から具体的に何をするの?」と。

「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道」

かつて、イチロー選手がメジャーリーグの年間最多安打記録を塗り替えた時のコメントである。偉業を成し遂げるにも、一本一本のヒットを積み重ねていく愚直さ、そして、その裏には日々の小さな努力でしか大きな成功は掴み得ないという大切なメッセージが滲み出てくる。

みなさんの目標やアクションプランに“小さな一歩”は言語化されていますか?